「私たちは清掃業者ではありませんが、ゴミを無視して介護はできないんです」。そう語るのは、二十年以上にわたり訪問介護の第一線で活動してきたベテランヘルパーの木村さん(仮名)です。彼女が経験してきたゴミ屋敷の現場は、凄惨という言葉だけでは言い表せないほど多岐にわたります。ある時は、膝まで積まった猫の排泄物と格闘し、ある時は、数千個の空き缶の中から行方不明になった薬の袋を探し出しました。木村さんによれば、ゴミ屋敷になる居住者の多くは、かつては几帳面で社会的な地位も高かった人々が、配偶者の死や自身の病気をきっかけに「生きる気力」を失ってしまった結果だと言います。そのような人々に、正論をぶつけても事態は悪化するだけです。「どうしてこんなになるまで放っておいたの」という言葉は禁句です。代わりに「これまで一人でよく頑張ってこられましたね」と労うことから始めなければなりません。木村さんの技術は、居住者が気づかないうちに、しかし着実に環境を変えていくことにあります。例えば、掃除機をかけるふりをして、足元の不要なチラシをそっと袋にまとめる。本人が大切にしている物があれば、それをあえて丁寧に拭いて「素敵なものですね」と褒める。そうすることで、居住者はヘルパーを「物を奪う敵」ではなく「自分と自分の居場所を大切にしてくれる味方」だと認識するようになります。また、木村さんは、ゴミ屋敷での断捨離において「出口戦略」の重要性を説きます。袋に詰めたゴミを、その日のうちに必ず家の外へ出すこと。室内にゴミ袋が溜まっていく光景は、居住者に強い心理的圧迫感を与え、逆効果になるからです。清掃という物理的労働の裏側には、緻密な心理戦と、一人の人間を絶望から救い出すという強い情熱が隠されています。「ゴミの中に埋もれているのは、その人の人生そのもの。それを丁寧に洗い出すのが私たちの本当の仕事」という木村さんの言葉は、困難な現場で戦うすべての介護職にとって、深い指針となるものです。