私の部屋がゴミ屋敷と化していたあの頃、キッチンの一角に鎮座する冷蔵庫は、私にとって決して開けてはならない「沈黙の要塞」でした。いつから電源が入っていなかったのか、最後に中身を確認したのはいつだったのか、記憶すら曖昧になるほど放置されていました。周囲をゴミの山に囲まれ、物理的にも近寄ることが困難になった冷蔵庫の隙間からは、絶えず粘り気のある黒い液体が漏れ出し、鼻を突くような酸っぱい臭いが部屋中に充満していました。ある日、立ち退きを迫られた私は、ついにその要塞の扉を開ける決意をしました。ガムテープで目張りをしていた隙間に指をかけ、力を込めて引いた瞬間の光景は、今でも私の悪夢に現れます。そこにあったのは、もはや食材としての形を留めていない、色とりどりのカビと腐敗物の塊でした。野菜室には泥のような液体に浸かった黒い物体が沈み、冷凍庫のアイスクリームは不気味な形に溶け固まっていました。扉を開けた瞬間に放たれた、生物が腐り落ちたような強烈な悪臭は、私の脳を麻痺させ、激しい嘔吐感を催させました。私はその時初めて、自分がどのような地獄の中に住んでいたのかを、視覚と嗅覚で思い知らされたのです。断捨離という言葉はどこか爽やかな響きがありますが、ゴミ屋敷の冷蔵庫と向き合う作業は、文字通り自分の過去の醜悪な部分を素手で掻き出すような苦行でした。防護マスク越しでも伝わってくる臭いと戦いながら、液体化した肉や魚を袋に詰めていく作業は、私に「生きること」への深い反省を促しました。冷蔵庫を空にし、その巨大なプラスチックの塊を運び出した後のキッチンには、ぽっかりと不自然な空白が生まれました。しかし、その空白こそが、私が新しい人生を歩み始めるためのスタートラインでした。あの日、冷蔵庫という要塞を解体したことで、私は物を持つ責任と、自分を大切にすることの意味を学びました。今でも清潔な冷蔵庫の棚を見るたびに、あの暗黒の時代を思い出し、二度とあのような場所には戻らないと心に誓っています。
沈黙の要塞と化した冷蔵庫を開けた日の記憶