認知症という疾患が、ゴミ屋敷化の決定的な引き金となるケースは少なくありません。ある事例では、かつて非常に几帳面だった女性が、アルツハイマー型認知症を発症したことで、物の必要・不要を判断する実行機能が低下し、自宅をゴミ屋敷にしてしまいました。彼女の場合、単なる物忘れだけでなく、新しい情報を処理できなくなり、ゴミ出しのルールや収集日を理解できなくなったことが大きな要因でした。また、見当識障害によって、自分が今どのような環境に置かれているのかを客観的に把握できなくなり、不衛生な環境への違和感さえも失ってしまったのです。さらに、前頭側頭型認知症などの特定のタイプでは、同じ行動を繰り返す「常同行動」や、目に入った物を何でも拾い集めてしまう「収集癖」が顕著に現れることがあります。こうした医学的背景がある場合、本人の努力や家族の説得だけで解決することは不可能です。事例研究を通じて明らかになったのは、認知症によるゴミ屋敷問題には、医療・福祉・行政の早期介入が不可欠であるという点です。居住環境の悪化は、認知症の症状をさらに進行させる悪循環を生みます。そのため、ケアマネジャーや医師と連携し、服薬管理やデイサービスの利用を通じて本人の生活リズムを整えながら、専門の業者による計画的な清掃を進める必要があります。認知症の方にとって、環境の急激な変化は混乱を招くため、馴染みの家具を残しつつ、安全を確保するための「環境調整」としての断捨離が求められます。ゴミ屋敷を個人の性格の問題ではなく、脳の病気の結果として捉える客観的な視点こそが、適切な支援を提供するための土台となるのです。それは、恥ずかしさや後悔、そしてようやく助けが来たという安堵が入り混じった、言葉にならない感情の現れです。特殊清掃員の仕事は、物の山を消し去ることで、そこに住む方の新しい人生のスペースを作ることです。どんなにひどい現場であっても、私たちはそこに一筋の光を見出したいと考えています。清掃が終わった後のガランとした部屋に差し込む日光は、再生を告げる希望の光なのです。
認知症が引き起こすゴミ屋敷の事例研究