一人暮らしの八十代男性、高橋さん(仮名)の事例は、ゴミ屋敷問題の解決においてヘルパーの継続的な関わりがいかに重要であるかを示す貴重なケーススタディです。高橋さんの自宅は、長年の溜め込み癖が災いし、一階の居間は完全に塞がり、二階への階段も物で埋め尽くされていました。彼はその隙間に潜り込むようにして寝起きし、食事は数日前のコンビニ弁当の残りを食べるという、極めて不衛生な生活を送っていました。介入当初、高橋さんはヘルパーの訪問を頑なに拒み、「余計なお世話だ」と怒鳴り散らしました。しかし、担当ヘルパーの根気強い訪問が、少しずつ彼の心を溶かしていきました。ヘルパーは最初、ゴミには一切触れず、ただ玄関先で高橋さんの趣味である釣りの話を聴き続けました。一ヶ月が過ぎた頃、高橋さんの方から「少し中に入ってもいいぞ」という許可が出ました。そこからヘルパーは、高橋さんの健康状態を懸念するふりをして、腐敗した食品だけを「毒になるから」と説得して捨てることから始めました。この小さな断捨離の成功体験が、高橋さんに変化をもたらしました。自分の周りが少しずつ綺麗になることの心地よさを思い出したのです。その後、ケアマネジャーと連携し、自治体のゴミ回収支援を利用することになりましたが、その際もヘルパーが横で「これは思い出だね」「これはもうお別れしようか」と声をかけ続けたことで、高橋さんはパニックを起こすことなく、大量の不用品を手放すことができました。半年が経過した今、高橋さんの家は、完全にではありませんが、ヘルパーが安全に介助を行えるスペースが確保され、週に一度はデイサービスに通えるほどに生活が再建されました。この事例から学べるのは、ゴミ屋敷の解決は「物の強制撤去」ではなく「心の再建」から始まるということです。ヘルパーという身近な存在が、居住者の孤独に寄り添い、失われた自尊心を取り戻す手助けをすることで初めて、物理的なゴミの山も崩れ始めるのです。