私はホームヘルパーとして働き始めて十年になりますが、週に二回訪問している佐藤さん(仮名)の家は、近所でも有名なゴミ屋敷です。初めてその玄関の扉を開けたときのことは、今でも忘れられません。隙間から漏れ出す饐えたような臭いと、胸の高さまで積み上がった新聞紙や空き缶の山。その奥から「入りなさい」という佐藤さんの掠れた声が聞こえたとき、私は一瞬、足が止まりました。しかし、ここで私が引き返せば、この人は本当に誰とも繋がれなくなってしまう。そう思い、私はゴミの斜面を這うようにして、佐藤さんの待つ寝床へと向かいました。私の仕事は、佐藤さんの全身を清拭し、服を着替えさせ、最低限の食事を用意することです。しかし、その作業を行うためのスペースを確保するだけで、訪問時間の半分が過ぎてしまいます。佐藤さんは、自分の周囲にある物を「宝物だ」と言い、一つでも動かそうとすると激しく怒ります。それでも私は、雑談を交えながら、枕元のカビが生えたパンの袋を「これはお腹を壊すから、新しいのと交換しましょうね」と、一袋ずつ、時間をかけて片付けていきました。ゴミ屋敷での介護は、文字通り戦いです。夏場は熱気がこもり、異臭はさらに強烈になります。汗だくになりながら作業をする私を見て、ある日、佐藤さんがポツリと言いました。「あんた、よくこんな汚いところに来てくれるね」と。その言葉を聞いたとき、私は胸が熱くなりました。佐藤さんは、自分が不潔な環境にいることを自覚しながらも、どうすることもできず、社会から見捨てられることを何よりも恐れていたのです。ヘルパーがゴミ屋敷で提供するのは、清掃というサービスだけではありません。「あなたは捨てられるべき存在ではない」というメッセージを、その存在そのもので伝えることです。断捨離を無理に強いるのではなく、佐藤さんが安心して眠れる場所、安心して食事ができる場所を、少しずつ、まるでパズルを完成させるように作り上げていく。床が数センチ見えるようになっただけで、佐藤さんの表情が明るくなるのを感じるとき、私はこの仕事の本当の意味を理解します。ゴミの山に囲まれた孤独な人生に、一筋の光を差し込むこと。それが、私が誇りを持って続けている、ヘルパーという仕事の真髄なのです。